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人事調査とは?調べていい範囲と違法になる境界線を解説

採用した社員の経歴に不審な点がある、在職中の社員に不正の疑いがある。そうした場面で人事調査を検討したとき、最初にぶつかるのが「どこまで調べていいのか」という問題です。

人事調査には、法令や国の指針によって明確な線引きがあります。線を越えた調査は、就職差別や個人情報保護法違反として企業側の責任が問われることになり、調査で得た情報を使った内定取消や処分そのものが覆るおそれもあります。

この記事では、人事調査で確認できる範囲と確認できない範囲、採用選考時と在職者とで異なる判断基準、依頼できる調査の限界、そして方法別の費用までを、根拠となる法令と国の指針にもとづいて解説します。

人事調査とは?企業が実施する3つの場面

人事調査とは、企業が人事上の判断をするために、対象となる人物の経歴や信用、勤務状況などを確認する調査です。調査の対象は採用候補者だけでなく、在職中の社員も含まれます。

同じ「人事調査」でも、実施する場面によって目的も、法的に許される範囲も変わります。まずは自社のケースがどれにあたるかを整理してください。

採用選考で経歴や信用を確認する

応募書類に書かれた学歴や職歴が事実か、取引上の支障になる問題を抱えていないかを確認する場面です。

採用選考時の調査は、後述する国の指針によって最も制約が厳しく設定されています。「採用前だから自由に調べられる」という理解は逆で、雇用関係がまだ成立していない段階だからこそ、応募者の権利保護が優先されます。

在職中の社員に不正やトラブルの疑いがある

経費の不正精算、商品や現金の持ち出し、勤務時間中の職務専念義務違反、競合他社への情報漏洩といった疑いが生じた場面です。

すでに雇用関係があるため、企業には業務との関連で一定の調査を行う根拠があります。ただし、これも無制限ではありません。判断基準は後述します。

昇進・登用や重要ポストへの配置を判断する

役員や管理職への登用、機密情報を扱う部署への配置など、企業のリスクに直結する人事判断の前に行う調査です。

対象者が社外の人物と不適切な関係を持っていないか、反社会的勢力とのつながりがないかといった、企業のリスク管理上の確認が中心になります。反社会的勢力との関係確認については、反社会的勢力チェックで回避できるリスクで詳しく解説しています。

人事調査でわかること・わからないこと

人事調査で確認できる情報と、調査では取得できない情報を対比した図

人事調査に期待される内容と、実際に確認できる内容にはずれがあります。依頼前にこの差を理解しておくと、調査の目的設定を誤らずに済みます。

調査で確認できること

調査で確認できるのは、次のような事柄です。

  • 申告された学歴・職歴が事実かどうかの裏付け
  • 前職での在籍期間や退職の経緯
  • 現在の勤務状況や生活の実態(在職者の素行調査の場合)
  • 反社会的勢力や特定の団体とのつながりの有無
  • 公開されているSNSやインターネット上の発信内容
  • 登記情報から確認できる会社役員としての兼業や関与
  • 企業への損害につながる具体的な行為の証拠

いずれも、調査員が現地で確認した事実や、公開情報、聞き取りによって積み上げるものです。

調査では取得できないこと

一方で、次のような情報は調査会社であっても取得できません。

  • 戸籍謄本・住民票(本人以外が正当な理由なく取得することはできません)
  • 前科・前歴の照会(照会できるのは法令で定められた機関に限られます)
  • 診療記録や健康診断の結果といった医療情報
  • 銀行口座の残高や取引履歴
  • 通信内容やメールの中身

これらを「取得できる」とする業者があれば、その手段は違法である可能性が高いと考えてください。違法に収集された情報は、社内処分や訴訟の場で使えないだけでなく、依頼した企業の側が責任を問われる原因になります。

採用選考時の人事調査には明確な線引きがある

厚生労働省が示す採用選考時に配慮すべき事項の3区分を整理した図

人事調査でもっとも慎重な判断が必要なのが、採用選考の場面です。ここには国が明示した基準があり、それを外れた調査は就職差別につながるものとして扱われます。

厚生労働省が示す「採用選考時に配慮すべき事項」

厚生労働省は、採用選考にあたって把握を避けるべき事項を公表しています。採用選考時に配慮すべき事項(厚生労働省)によると、内容は3つの区分に分かれます。

(a)本人に責任のない事項

  • 本籍・出生地に関すること
  • 家族に関すること(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)
  • 住宅状況に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など)
  • 生活環境・家庭環境などに関すること

(b)本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)

  • 宗教に関すること
  • 支持政党に関すること
  • 人生観・生活信条などに関すること
  • 尊敬する人物に関すること
  • 思想に関すること
  • 労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
  • 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

(c)採用選考の方法

  • 「身元調査など」の実施
  • 本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用
  • 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施

注目すべきは(c)で、「身元調査など」の実施そのものが、配慮すべき事項として名指しで挙げられている点です。採用選考の段階で、応募者の家庭環境や生活環境にまで踏み込む調査は、この基準に照らして問題になります。

職業安定法が収集を禁じている情報

職業安定法にもとづく指針(平成11年労働省告示第141号)は、求人者が求職者の個人情報を収集する際に、原則として収集してはならない情報を定めています。

  • 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
  • 思想および信条
  • 労働組合への加入状況

厚生労働省の指針は、求職者等の個人情報の取扱いに関する指針(厚生労働省)で確認できます。特別な職業上の必要性があり、収集目的を示して本人から収集する場合は例外とされていますが、本人に知らせずに第三者から集める調査は、この例外にあたりません。

要配慮個人情報は本人の同意なく取得できない

個人情報保護法は、特に慎重な取扱いを求める情報を「要配慮個人情報」として区分しています。該当するのは、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実、身体・知的・精神の障害、健康診断等の結果、医師等による指導・診療・調剤の事実、刑事事件手続、少年保護事件手続に関する情報です。

これらは、原則としてあらかじめ本人の同意を得なければ取得できません。詳細は個人情報保護委員会の個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)に示されています。

つまり、応募者の病歴や犯罪歴を本人の同意なく調べることは、調査手段が何であれ認められません。

線引きを守れば採用時の確認ができなくなるわけではない

ここまでを読むと、採用に関わる確認が一切できないように見えるかもしれませんが、そうではありません。制限がかかるのは、本人の適性・能力と関係のない事項です。

  • 申告された学歴・職歴が事実かどうかの確認は、業務遂行能力の評価に直結します
  • 反社会的勢力との関係確認は、暴力団排除条例への対応として企業に求められる取り組みです
  • 前職での勤務状況の確認は、本人の同意を得たうえでのリファレンスチェックとして実施できます

判断の分かれ目は、「その情報は、本人の適性・能力の評価に必要か」という一点にあります。経歴詐称そのものへの対応は、経歴詐称は損害賠償請求できる?もあわせてご確認ください。

在職中の社員を調査するときの判断基準

在職者への人事調査が認められるかを3段階で判断する流れの図

在職中の社員に対する調査は、採用選考時とは前提が変わります。すでに雇用契約があり、社員には職務専念義務や誠実義務があるため、企業には業務に関連する範囲で調査を行う根拠があります。

ただし、雇用関係があることは、社員の私生活まで調べてよいという意味ではありません。実務では次の3点を順に確認してください。

1. 業務との関連性があるか

調査しようとしている事柄が、業務や企業の損害に結びついているかどうかです。

経費の不正精算、商品の持ち出し、勤務時間中の職務放棄、競合他社への情報持ち出しは、いずれも業務との関連が明確です。一方、休日の過ごし方や交友関係そのものは、業務との関連を示せない限り調査の対象になりません。

2. 調査の方法と範囲が目的に見合っているか

目的が正当でも、手段が過剰であれば問題になります。

確認したい事実に対して、必要最小限の方法と期間にとどめることが、後から調査の妥当性を問われたときの防衛線になります。疑いのある特定の日時・場所に絞った行動確認と、期間を区切らない継続的な監視とでは、評価がまったく異なります。

3. 私生活の領域まで踏み込んでいないか

住居内の様子、家族の状況、思想や信条にかかわる事柄は、業務との関連を説明できない限り調査の対象外です。

社員に対する調査が違法と判断された場合、その調査で得た情報にもとづく懲戒処分が無効になるおそれがあり、企業が損害賠償を求められる可能性もあります。社員への調査が違法になる具体的な事例は、社員への素行調査が違法になる場合とは?で解説しています。

判断に迷う段階でご相談いただければ、調査の目的と範囲の整理からお手伝いできます。秘密厳守で対応し、しつこい営業はありません。対応に迷ったら、まずは無料相談をご利用ください

探偵に依頼できる人事調査・依頼できない人事調査

調査会社に依頼すれば線引きを気にしなくてよい、ということはありません。探偵業者の側にも法律上の制限があり、受任できない依頼があります。

探偵業法が定める2つの制限

探偵業の業務の適正化に関する法律は、調査結果の使われ方について次の制限を設けています。

  • 第7条:契約を締結しようとするときは、依頼者から、調査結果を犯罪行為、違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いない旨を示す書面の交付を受けなければならない
  • 第9条:調査結果が犯罪行為、違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いられることを知ったときは、その探偵業務を行ってはならない

本籍や出生地を調べて採否の判断に使う目的の依頼は、この「違法な差別的取扱い」にあたるため、探偵業者は受任できません。

依頼時に書面の提出が求められる理由

契約時に提出いただく書面は、形式的な手続きではなく、法律が定める要件です。

この書面によって調査の目的が明確になり、企業側も「何のための調査か」を社内で説明できる状態になります。調査を実施したこと自体を後から問われた際に、目的と範囲が記録として残っている意味は小さくありません。相談から報告までの流れは、ご相談とご依頼までの流れでご確認いただけます。

人事調査の方法と費用

自社実施・リファレンスチェック・探偵依頼の3つの方法を調査範囲と費用で比較した表

人事調査を実施する方法は3つあり、確認できる範囲と費用が異なります。

自社の人事部で実施する

公開されている情報の確認や、応募書類の記載内容の照合であれば自社で対応できます。費用がかからない一方、確認できるのは表面的な情報にとどまります。

自社で調査を進める場合も、ここまで解説した法的な線引きは同じように適用されます。自社実施だから許される、という区分は存在しません。

リファレンスチェックサービスを利用する

本人の同意を得たうえで、前職の関係者に勤務状況を照会するサービスです。同意が前提のため法的な問題は生じにくく、採用選考の一環として組み込みやすい方法です。

ただし、確認できるのは本人が同意した範囲に限られます。本人が申告していない事実や、意図的に隠している経歴の裏付けには向きません。

探偵・調査会社に依頼する

調査員が現地で確認する方法です。在職者の不正のように、証拠として使える記録が必要な場面ではこの方法になります。

弊社の人事調査の料金は、調査の難易度に応じて次のとおりです。

  • 難易度★:165,000円(税込)〜
  • 難易度★★:440,000円(税込)〜
  • 難易度★★★:726,000円(税込)〜

調査員の人数や調査範囲によって金額は変動し、交通費などの諸経費は調査終了後に別途請求となります。他の調査項目も含めた料金は調査料金の比較と調査プランに掲載しています。

人事調査を依頼するときに決めておくこと

依頼前に社内で整理しておくと、調査範囲が明確になり、費用も抑えられます。

調査の目的と使い道

調査結果を何に使うのかを先に決めてください。懲戒処分の検討、損害賠償請求、配置の判断では、必要になる証拠の水準が変わります。

処分や請求を視野に入れるなら、事実の把握だけでなく、第三者に示せる形の記録が必要になります。

調査範囲と期間

確認したい事柄を具体的にするほど、調査は短期間で終わります。「不審な点を全部調べてほしい」という依頼は範囲が広がり、費用も期間も増えます。

疑いが生じている日時や場所、行動のパターンなど、社内で把握している情報をお伝えいただければ、そこに絞った調査計画を立てられます。

報告書の形式

社内の会議で共有するのか、弁護士に渡すのか、訴訟で証拠として提出するのかによって、報告書に求められる形式が変わります。

用途を事前にお伝えいただければ、その使い方に合わせた報告書を作成します。

人事調査でよくある質問

Q. 本人に知らせずに調査してもよいのでしょうか

在職者の不正の疑いを確認する調査では、事前に本人へ通知すると証拠の隠滅につながるため、通知せずに実施する場面があります。ただし、調査対象が業務に関連し、方法が目的に見合っている必要があります。採用選考時に、本人の同意なく要配慮個人情報を取得することは認められません。

Q. 調査にはどのくらいの期間がかかりますか

確認したい事柄と範囲によって変わります。特定の日時に絞った行動確認であれば数日、勤務実態の把握など継続的な確認が必要な場合はそれ以上かかります。ご相談時に想定期間をお伝えします。

Q. 調査していることが社員に知られませんか

調査は対象者に気づかれない方法で実施します。また、依頼された事実を含め、調査に関する情報は外部に出しません。

Q. 結果によっては処分できないこともありますか

調査の結果、疑いを裏付ける事実が確認できない場合もあります。その場合は確認できなかったことをそのまま報告します。事実が確認できたときも、処分の可否は労働法上の判断になるため、弁護士とあわせてご検討ください。

人事調査は目的と線引きを決めることから

人事調査で失敗する原因は、調査の技術ではなく、目的と範囲が曖昧なまま着手することにあります。

採用選考時であれば、厚生労働省が示す「採用選考時に配慮すべき事項」と職業安定法の指針が判断の基準になります。在職者であれば、業務との関連性、方法の相当性、私生活への踏み込みの3点で判断します。この線引きを先に決めておけば、調査結果を社内の処分や法的手続きで使えるものにできます。

弊社では、人事調査の目的整理から調査範囲の設計、報告書の作成までを一貫して対応しています。調査を依頼するかどうかを決める前の段階でも構いません。サービスの詳細は人事調査のページをご覧ください。

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